昨日統計不正問題について書きました。
あの記事をアップした後たまたま思い出したことがあったので忘れないうちに書いておこうと思います。
アメリカメジャージーグで毎年シーズンオフにある様々な個人表彰の中でピッチャーに送られる最も栄誉ある賞が「サイ・ヤング賞」です。
これは通算511勝(!!)をという歴代最多勝を挙げたサイ・ヤングの名前をとってつけられた賞で、その年に最も活躍した投手を全米野球記者協会に所属する30名の記者の投票にとって選出されます。
この投票で2018年は面白い現象が見られました。
10勝9敗、防御率1.70のジェイコム・デグロムが18勝7敗、防御率2.53ののマックス・シャーザーを抑えてナショナルリーグのサイ・ヤング賞に選出されました。
「いくら防御率が1点台だからといって10勝しか挙げられていないピッチャーが18勝投手を上回る?」
というのが日本のプロ野球を中心に観戦していてメジャーリーグにはあまり興味がないという方の感想かもしれません。
「なんで?」と首を傾ける原因でしょうね。
今回の選出の大きな理由としては
「投手を評価する見方が変化してきている。」
という事に尽きると思います。
具体的には
「先発投手の評価が勝ち星よりもクオリティ・スタートを重視する様になってきた。」
という数字です。
クオリティ・スタートというのは
「先発投手が6イニング以上を投げ、かつ3自責点以内で抑える。」
という結果を残した時にカウントされる指標で
「先発投手がしっかりゲームを作れるか。」
という能力を表します。
これがデグロムは
「24試合連続のクオリティ・スタート達成。」
「同一シーズンでクオリティ・スタートを28試合も記録したのはメジャー史上最高」
「32試合投げて28試合クオリティ・スタートというクオリティ・スタート率が脅威の0.875」
という成績を残し、これが評価されて投票者30名中29名から一位票をもらっての選出となりました。
このクオリティ・スタートという数字、最近日本のプロ野球でもちょくちょく耳にする様になりましたが、これは
「セイバーメトリクス」
という統計学からきている指標があり、そこから導き出される評価方法なんです。
このセイバーメトリクスという指標、ざっくりいうと
「野球統計学」
という意味です。
メジャーリーグでは様々なデータが充実しています。
それだけでなく、それを活用する部門も非常に進んでいます。
・送りバント、意味があるの?
・盗塁というのはリスクの割にリターンが少ない。
・打率より出塁率の方が得点との相関関係が大きい。
・長打率というのは塁を稼げる力である。
という様々な事が分かってきて、それらの指標を基にチーム編成をする球団が増えてきました。
・送りバントに意味がない…従来バントとかの小技が効く選手が多かった2番打者にチーム一番の強打者を持ってくる。
・打者の総合的な評価を単純な打率とかホームラン数とかではなく出塁率と長打率を足した「OPS」という指標で評価する。
という様にどんどん様々な指標を活用し、さらには役割の全く違う投手と野手を同列で評価できる
「WAR」
なんでいう指標まで一般的に使われています。
結局何が言いたいかというと
「基礎的なデータが非常にしっかりしている。」
「そのデータをしっかり活用してチーム編成に生かしている。」
という事なんですね。
OPSやWARの他にも本当にたくさんの指標があります。
日本のスポーツ新聞やスポーツ紙で打者の成績を紹介するときは大抵打率やホームラン数を表記しますが、メジャーの雑誌とかを見ると必ずOPSやWARが出ています。
(この辺りは日本で発売されている雑誌「SLUGGER」なんかを読まれるとよく分かるかと思います。)
過去の数字がしっかり保存されていればその事を分析することで様々なデータを得る事が可能になります。
今は様々な企業が消費者のデータ収集に躍起になっています。
昭和の時代の
「何かものを作れば売れた。」
という時代から
「価値観が多様化し世の中全てを巻き込む様な大ヒット商品が生まれにくくなっている。」
という時代に変わってきたからこそ消費者のデータ収集を行い、そこから消費者のニーズを汲み取り、それを商品開発やサービス内容に生かそうとしています。
メジャーリーグではここ数年は「スタットキャスト」というデータ解析システムが本格導入されています。
「トラックマン」という軍事用レーダーと映像解析システムを組み合わせたものであり、
トラックマンでボールをトラッキングするシステムを使い、投球されたボールの回転数や打球の角度を計測し、画像解析で選手の動きをトラッキングして走塁や守備に関する数値が計測できます。
特に感服させられるのがデータの活用方法。
・膨大なデータから打者毎に打球が飛んでくる角度を抽出し守備位置を変える方法が浸透→極端な守備シフトを敷くチームが増え、打者がアウトになる確率が増えた。
・これに対抗する為に今度は打者が「バレルゾーン」でボールを捉える技術を身につける様になった。
バレルソーンとは打球速度と打球角度の組み合わせで構成されるゾーンの事で、ここでボールを捉えると打球は必ず打率5割、長打率1.5割以上となる。
・バレルゾーンでボールを捉えるにはバットを水平面から+19度上向きの軌道(=アッパースイング)でボールの中心点から0.6センチ下を捉えると最も良い、というデータがある…ここが最近よく耳にする
「フライボール革命」
の出発点。
・バレルゾーンでボールを捉える為にアッパースイングになりがちなバッターに対し、今度はピッチャーがアッパースイングに対し最も有効的な変化球、カーブを投げる様になる。
(2017年にワールドチャンピオンになったアストロズ投手陣がプレーオフでカーブを多投していた、というのをNHKのワールドスポーツMLBで小宮山悟さんが解説していました。)
こんな感じでデータ解析→活用→対策というものがどんどん進み、競技や戦術が進化していくというのがよく伝わってきます。
ピッチャーの評価、投手と野手との読みあい、裏の取り合い。
戦術がどんどん進化していきます。
昨年のMLBの中継は本当に面白かったです。
今まで漠然と「ボールの切れ」という表現でしか分からなかったものが
「回転数」という表現に置き換わりました。
ホームランを打つと打球の角度が何度かが分かる様になりました。
ボールの回転数やホームランの角度等が中継時に一瞬にして映像で映し出されます。
各チームの戦術の進歩にしても中継の面白さにしても全てデータから導き出されています。
このデータがいい加減だった日本の雇用統計問題、どうやって着地点を迎えるつもりなんでしょうか。
一つ言える事は
「MLBの様なデータを活用しながら国家戦略を考える事は不可能である。」
という絶望的な事実だけですね。
いい加減なデータを使えばミスリードの原因となる。
こういう省庁の役人がろくに責任も取らず、定年まで勤務した後、民間の中小企業の数倍の退職金をもらっていく、なんだかなあといった感じです。
アベノミクスだ好景気だと言いながらそのデータがいい加減だった日本。
収益が最高潮に達している昨今のMLB。
データを生かし改善し続ける組織とデータそのものをいい加減にしてしまい、誰も責任を取ろうとしない組織。
この違いもその原因の一つなんでしょうね。