勤労統計の不正が問題になっています。
詳細は様々なメディアで報道されているのでそちらをご覧いただければいいと思いますが、一連の問題を見て思うのは
「厚生労働省の連中は事の重大さを全く分かってないな。」
という事です。
これは国に限らず企業もそうですが、何か新たな施策を実施しよう、とか今の施策をこのまま継続していいものかどうかを判断する為にはまず過去のデータが必ず必要になります。
僕自身今勤務している会社で経営上の意思決定の場に関わる事が多々ありますが、意思決定者というのは何か経営上の重大な事項を決める時に必要なものが2つあります。
・現状…過去どうなっていたかを確認する。
・未来…正確な予測が出来ない中で様々な状況から分析して「こうなるであろう」という推論を立てる。
この2つの要素というのを必ず求めるはずですし、この2つがないと決められないと思います。
この2つの要素のうち未来はあくまで予想ですが(予想は外れる事が当然にあります。)、現状、つまり過去というのは既に終わってしまった出来事なので正確なデータというものが出せるはずなんです。
国の場合、そういったものを管理する為に統計法という法律も存在するはずです。
僕も「統計法に基づく」」なんていう名の下に国から送られてきためんどくさい資料を必死になって作成した記憶があります。
この一連の報道を見て思い出したのが以前うちの会社で行った給与規定の改定の時の事です。
もう3年位前の話になります。
以前のうちの会社の給与は同じ仕事をしていても異なる給与体系がいくつもありました。
これはうちの会社の社長が起業して従業員を増やしてく中で、誰かの紹介とか、誰かのつながりとかで入社してくる人が多く、社長もある程度相手の事情とか生活環境を聞きながら「これ位の給与は払ってやらんとあかんなあ…。」と思いながら給与を決めていました。
従業員数が少なければそれでもいいのですが、従業員が増えてくると従業員同士で給与の話になったりします。
「お前いくらもらってる?」
「お前の給与明細ってどうなっている?」
といって情報交換を始めます。
(僕は他の従業員と給与明細を見せ合う、という行為が信じられませんでしたが実際にやる方はやるんですね。ちょっとびっくりしました。)
そうやって自分の方が金額が少なかったりすると「どうして俺だけ?」となってその感情は会社への不満となります。
さらに以前がよくなかったのは営業でもないのに給与の大部分を売上比例給与を使っていた、という事です。
現場の方は会社からの指示に従って仕事をこなします。
そして会社はこなしてくれた仕事の何割かを手当として加算します。
ところがこの仕事は現場の方がとってきた仕事ではありません。
あくまで会社の指示で行った仕事に対して忠実にこなしただけなので指示内容によって給与の額が変動されてしまいます。
さらに給与総額に占める変動給の割合が相当大きかった為、毎月の実働日によって給与の額が相当変わってしまう、という事がありました。
・同じ職種の仕事をしていて体系が異なる。
・自分の実力でもない売上給により月々の給与にばらつきが出てしまう。
さらに
・その時点まで労務管理が全くされていない。
というまさに三重苦の状態でした。
ここを改善する為に行ったことが
・労働基準法の最低限押さえないといけない箇所。
・社長が給与明細にどの様にメッセージを与えるかという事。
・そして過去の様々なデータでまず過去の統計を取る。
この3つでした。
当然僕一人の手に負えるはずもなく、事務の女性にかなり負担をかけたり、社会保険労務士の先生に手伝っていただいたりしながら、 9か月くらいかけて新給与規定に移行しました。
この改定の時に不可欠であったのが「過去のデータ」でした。
残業時間ややっていただいた仕事の量、売上、様々なデータを抽出し、それにどの数字を使えば経営に多大な負担をかけるわけでもなく、さらにある程度納得出来るものが出来るか、試行錯誤しながら試算を行ったのですが、その時に本当に役立ったのが過去のデータでした。
当社の給与規定変更はこれがなければ決してうまくはいきませんでした。
今回の不正統計はこの数字がめちゃくちゃだったという事です。
もしこんなことが本当にまかり通ってしまったら会社にとっての経営者である国の内閣がいい仕事なんて出来るはずがありません。
うちの会社も過去の数字が残っていたからそこからいろいろなデータを抽出できた。
これがなかったらと思うとぞっとします。
ましてや今回は国の話。
一民間企業でなく国家の経営方針を決める際に統計というのは不可欠なものです。
この大事さ、給与規定の改定の時に過去のデータにさんざんお世話になった僕は痛いほどわかります。
以前も消えた年金問題があったにも関わらすこの不始末。
国家の正確な統計は国家百年の計を決めるのになくてはならないものです。
それをどんどん改ざんしていってその改ざん行為自体を隠ぺいする。
僕からしたら犯罪に等しいです。
この不正統計で日本国民が負った不利益はすさまじいものがあると思います。
「厚生労働省、何してくれてんねん。」
と声を大にして叫びたい気分です。
今の若い人達は王貞治さんの事をプロ野球ソフトバンクホークスの会長という事しか知らないと思います。
(ひょっとすると第一回WBCの日本代表監督、という記憶もあるかもしれません。)
ところが王貞治さんは日本野球界に燦然と輝くレジェンドです。
何故プロ野球界に王貞治さんの名前が残り続けるかというと
「868本塁打」
という記録がちゃんと残っているからこそです。
王さんが前人未踏の記録を達成し、その記録が存在するからこそ名前も残ります。
我々はその記録から王さんの足跡をたどる事が出来ます。
記録が残り続けるからこそ先人へのリスペクトが生まれ、そういう人々の意識こそが文化へと繋がっていく訳です。
・イチローの日米通算安打記録
・福本豊さんの盗塁の通算記録
・金田正一さんの通算勝利数
・谷繫元信さんの通算出場試合数
・岩瀬仁紀さんの通算登板数
これから野球に接する人たちはみんなこれらの記録を通じて「この人ってすごい」となっていく訳です。
もし王さんの記録が不正集計だったとしたら?
上記の偉大なレジェンド達の記録が不正だったら?
そんな事は考えたくもありません。
そんな考えたくない事が我が国では平気で起こっているわけです。
厚生労働省、猛省だぞ!!
与党も野党も今回の事を政争に使わずちゃんと改善せーよ。